草の匂いがする。

少し肌寒い。

ああ、私はどうしてこんなところで寝てしまったんだろう・・・。

こんなところで寝ていたら風邪を引いてしまう。

起きて、ベッドで寝ることにしよう。















??





私はベッドで寝ていたんじゃなかったっけ?

ゆっくりと眼を開ける。

若い芝生が視界の半分を占めていた。
どうやら屋外だ。

上体を腕で押して起きる。

下は芝生、周りは公園のような広い草原だ。

後ろを振り返ると大きくて深そうな森があった。

そして・・・・目の前には写真で見たことのあるような中世ヨーロッパの大きな城。





ここは・・・・何処だ・・・・?







昨日私はいつものように仕事から帰ってきて夕食を食べて、テレビを見て、自分の部屋の、自分のベッドで寝た。
1LDKの部屋で寝た。
なのに、眼を開けるとお城の前だ。
寝ている間に何が起こったのだ?

私は自分の姿を確認した。
長袖のTシャツに黒いスウェットのズボン。いつもの寝着だった。
乱暴された様子もない。

私はしばらくボーっとした。

カラカラの口内に僅かに分泌される唾液、肌に感じる草の感触、森から流れる風の匂い、太陽の暖かさ。
五感はしっかりしているようだ。


私は立ち上がった。








遠くの方で人が歩いているのが見えた。
その人物は私の方に眼をやると急ぎ足で寄ってきた。


「貴様!ここで何をしている!?」
男性だった。
ほっそりとしていて背が高い。
具合が悪そうな土気色の顔に鉤鼻がくっついている。
脂気の多そうなねっとりした肩までの黒髪。
髪に負けないくらいの漆黒のスーツを着て、これまた漆黒のローブを羽織っている。
今時珍しい格好だった。


顔つきは凶悪で(この状況では無理もないが)やさしい類の人物ではなさそうだ。




「我輩の質問に答えろ!ここで何をしているのだ?!」
男は再度私に怒鳴りかけた。






「・・・・・・・わかりません。」
私は正直に答えた。


「戯け!!」
男性は30センチほどの細い棒を腰から出し、私に突きつけた。

「・・・・・・わからないんです。気が付いたらここに寝てました。」

「下らん嘘はつかぬ方が身のためだ!!」

「だから、わからないんですってば!私が聞きたいですよ!ここは何処なんです?何故私はここにいるんですか?」

「まだ白を切るつもりか!」

「白なんて切ってませんよ!分からないものは答えようがありません!」







「スネイプ先生!どうしたんでさぁ?」

身の丈3メートルはあろう巨大な塊のような男が森の方から歩み寄ってきた。
髪の毛はモジャモジャで分厚いモールスキンを着ている。

「誰ですか、このお嬢ちゃんは?」

「不法侵入者だ!」

「不法も何も気が付いたらここにいたんですってば!」

「まだ言うか!」

少し間をおいて大男が言った。
「・・・・スネイプ先生、これはダンブルドア先生に報告したほうがいいんじゃねぇですかい?」

意地の悪そうな男は言った。
「校長の手を煩わせるほどのことではない!」
「いや、しかし・・・」

大男はまた考えて言った。
「いや、やっぱり校長先生に報告したほうがいいですぜ!わしが話をつけてきます!」
そういうと大男はドスドスと大きな足音をさせながら城へ走っていった。

黒衣の男は苦々しげに男を見送ると、私に凶悪な視線を寄こした。
私は人生一、気まずい時間を過ごした。





しばらくすると大男がやっぱりドスドスと大きな音をたてて帰ってきた。
「校長先生がお会いになるそうです。さあ、校長室へ!」


私は半ば連行されるように城へと連れて行かれた。