まさかこの年で制服を着ることになるなんて思わなかった。

まぁ、そういう趣味の男と付き合う場合は致し方ないとは思っていたが、それはそれ!
プレイ中だけの事で・・・日常的な着用なんて考えもしなかった。

原因は分からないが、イギリスの何処かにあるホグワーツ魔法魔術学校の庭へ着地し、不法侵入にも関わらず心やさしいアルバス・ダンブルドアの配慮で解決方法が見つかるまでは特別枠の新入生として学校生活を送ることを許可された

一つ不思議なことに、英語がしゃべれる・書ける・読めるかわりに日本語がまったく分からなくなってしまった。
日本語も中国語もチャイニーズキャラクターの羅列にしか見えない。これについても原因は分からない。まぁ、この世界で生活するには都合がいい変化なので当面問題はないのだが。





ここまではいい!

本当の問題は御年21にもなってかわいいかわいい学生服を着なければいけないことだ!
日本人は海外では実年齢より10歳は若く見られるというが、それは外見だけの話で、
中身は立派に21歳なのだ。心も身体も21歳なのだ!

それなのに、11歳〜18歳の純粋な少年少女に混じって制服を常時着用しなければいけないこの辛さ!お解りいただけるだろうか?しばらくは(といっても、いつまでか皆目検討がつかないのだが・・・)なんとしてでもはこの気恥ずかしさに慣れねばならない。

一日中、頭を働かせて新しいことを吸収するのは、新鮮で苦にならない。
逆に、今まで未知の世界である「魔法」というジャンルに興味深々だ。
特に面白いのが箒飛行術で、自分の身体が単体で空を飛べることにとても感動した。
だが、どの教科も基礎の座学は暗記が多く宿題も毎日山のように出されるので、
大学生のようにスクールライフを満喫・・・・というわけにはいかなかった。


ちなみにには少々苦手な教科がある。


授業の終わりにスネイプの声が教室に響いた。
「我輩は異国人だからといって特別扱いはせん。
ミス・、残ってきちんと効力のある疣消し薬を完成させたまえ。」

あからさまに嫌な顔をしてやったが、スネイプには効かない。

スネイプは事有る毎にに居残りをさせる。
これはの魔法界における無知を気遣ってのことだろうが、生徒から見ればハリーやネビルにやるようなイビリと同じにしか見えない。
実際、この扱いの半分以上はイビリが占めているのだろうが・・・。

しかしこれには訳がある。
元々、を第一に発見したのは誰あろうこのスネイプなのだ。

を捕獲した当初はハリーにやるのと同等(もしくはその上)の酷い扱いだったが、こんな厄介者を連れてきてしまった後悔というか、ダンブルドアの手を煩わせてしまった自責の念というか・・・
とにかく、スネイプ自身が(あくまでも自らの保身の為である)これ以上教員達の冷たい視線を受けないよう、魔法界の勉強や常識をちょこちょこと教えて、この世界での常識からはずれた行動をとらないように指導してくれる。

もちろん、スネイプのキャラクターの手前、他の生徒の居ないときにこっそりとしなければならないので、こういう居残りが好都合だ。
イビリにしても何にしても、早く魔法界に溶け込めるよう彼なりに気を遣っているようだ。



「先生!この授業の復習は談話室で私が一緒にやります!」

ハーマイオニーが気を利かして発言してくれた。スネイプは校舎が全焼したかのような凶悪な面持ちで返した。

「いつから我輩に意見できるほど偉くなったのだね?ミス・グレンジャー。
無駄話をしていないでさっさとランチへ行きたまえ。さもないと君の成績はおろか、グリフィンドールは今学期が始まって2ヶ月で最下位となるほど減点するが…それでもいいかね?」

「いいのよ、ハーマイオニー。居残りはもう慣れたわ。」

耳元でささやくと、ハーマイオニーは下唇を噛みこちらを向いた。

「…ごめんなさい、力になれなくて」

ハーマイオニーは悲しそうにつぶやくと、とぼとぼと大広間へ向かった。

その後に続きハリー、ロンが頑張れよ、とかご愁傷様とか声をかけて教室を出た。

一緒に授業を受けているスリザリンの生徒はニヤニヤしながら今日のランチの話しや、自分はどれだけ簡単に疣消し薬を完成させたかを大声で語りながら、わざとの横を通って教室を出ていった。





スネイプの教室は牢屋だ。
無機質で薄暗く飾り気がない。
みんなが帰って一人になると寒々しいのと怖いのとで肩がブルッと震えた。

錫製の鍋はさっきからグツグツと音を立てている。

「…先生。私、魔法薬のセンス無いと思いませんか?」

「・・・・・・・・・」

「順番どおりに材料を入れたつもりなのに、とても処方できるような色していません。この薬。」

日本にの学生時代は化学実験は得意だったし、料理の腕前には自信があった。
それだけに魔法薬学の授業は楽勝だろうと思っていたは、鍋の中の不気味な液体を掻き回し睨みつけた。

教卓に座り分厚い黒皮張りの本を読みながら、顔を上げずにスネイプは喋りだした。

「トカゲのしっぽは鍋が沸騰してから入れるのだ。
それとヤグルマギクの葉は火を消して最後に入れる。」

「・・・・・・・・。」

そういわれると間違えていた。
言われたとおりにもう一度最初からやってみると、今度は綺麗な薄緑色になった。不気味な湯気も出ていない。

「出来ました。」

「・・・・薬液瓶に入れて提出しなさい。」

またも顔を上げずにスネイプは言った。
言われたとおり、薬液瓶に少量移しタグを巻きつけて教卓へ提出する。
やっと暖かいランチが食べられると、ほっと胸をなでおろした。

「ほう、やっと自分の愚かな間違いに気付いたというわけかね?」

提出した薬液瓶を眺めながら言った。

「異国の住人にしてはまあまあの出来だろう。
だが、貴様のような輩がこの高等な魔法薬学を受講するのは、我輩としては不愉快極まりないが。」

褒めているのか貶しているのか分からない。

「補習有難う御座いました。」

ペコリとお辞儀をして素早く自分の席まで戻った。

気のせいだろうが、スネイプのを見る眼が何処となく意味を含んでいるような感じがするのは。

は背中に絡まるスネイプの視線を受けながら思った。

そんな感覚を受けるのは決まってが一人のときだ。
珍しいものを見るような眼というか、品定めをしている眼というか・・・。

手際よく錫鍋を片付けて牢獄教室を出る。

「我輩も暇ではない。毎回毎回手を煩わせないでくれたまえ。」

背中に浴びせかけられる嫌味を無視してドアを閉めるとネビルがを待っていてくれた。