ハリーの大嫌いな夏期休暇がそろそろ始まってしまうという頃、から三人宛てにふくろう便が届いた。 ハリー、ロン、ハーマイオニーへ 元気かしら?この前はあなたたちと話せて本当に楽しかったわ! そろそろ夏期休暇だけど、休暇の終わり頃、約束通り家へご招待するわ。 美味しいお菓子をたくさん仕入れて、お料理を作って待ってるから絶対来てね! P.S ハリーのお家には私が迎えに行くから心配しないで! ハリーの夏期休暇は、毎年のように蔑まれた日々だったが、ハリーはが来るのを今か今かとウキウキしながら待っていたので、ダーズリー一家の酷い扱いはあまり気にならなかった。ただ、がダーズリー家の人にどんな口実をつけてハリーを連れて行くのかが不安だった。 夏期休暇が終わるまで、一週間と迫ったある日、はダーズリー家を訪れた。 玄関のチャイムを鳴らす。 「どちら様かね?」 バーノンが玄関へ出ると、半そでのワイシャツに黒のスラックスを穿いた、キャリアウーマンぽい容姿のが立っていた。 「初めまして、私ハリー君の友達の・スネイプと申します。実は、夏期休暇中ハリー君を我が家へご招待する約束をしておりまして、今日お迎えにあがりました。」 ハリーは自分の名前が呼ばれて急いで玄関に向かうと、は「ハイ、ハリー!」と軽快に手を振った。 口をアングリ開けて、声の出せないバーノンを無視し、はハリーに話しかける。 「ハリー、お泊りの準備はできてる?それから、学用品も纏めて!今年は私の家から学校へ行きましょう。」 ハリーはバーノンおじさんのことが気になったが、が来たことが嬉しくて、急いで二階に上がると、学用品をトランクの中へメチャクチャに押し込めた。 階下からはの声が聞こえる 「ハリー!箒と水着も忘れないでね〜!!」 ハリーはやっとのことでトランクを閉めると、ヘドウィグの入った籠とトランクを引き摺りながら、ゴトゴト物凄い音を立てて階段を下りてきた。 リビングからはダーズリー一家の笑い声が聞こえる・・・・・・・ハリーはリビングのドアを開けた途端、信じられない光景を目の当たりにした! なんととバーノン、ペチュニア、ダドリーが楽しく談笑している! ハリーに気付いたが楽しそうに笑いかける。 「あら、ハリー。早かったわね?では叔父様、叔母様、ダドリー君、ハリーをお預かりさせていただきますわ。」 「ああ、ハリーをよろしく頼むよ。」 「楽しんでいらっしゃいね、ハリー!」 「じゃあハリー、気を付けて!」 ハリーは今まで一度もかけられたことがない、ダーズリー一家の優しい言葉に、返す言葉も無くに腕を引かれるまま、プリベット通りを歩いた。 「あのっ、さん?」 「なぁに?」 「おじさん達に、何かしたの?」 「したと言えば、したわね。私が調合した『穏やか薬』をちょっと吸い込んでもらったの。」 はポケットから携帯用香水入れのような小瓶を出した。 「これを一家にシュッとね? 一週間は効果が持続するから正気に戻った時には、ハリーはホグワーツに向かった後。ダドリーは明日から新学期って設定ね。」 少々不安そうなハリーには付加えた。 「大丈夫よ!私の魔法薬の効き目はセブルスのお墨付きだから、絶対にハリーに迷惑はかけないわ。そんな心配そうな顔しないで、これから楽しい夏休みなんだから!」 「はい!」 はハリーを連れて、自宅へと向かう。 スネイプの自宅だから、陰気なのを想像していたハリーは見事に裏切られた。 最寄の街から少し離れた湖畔の森の端に建っているスネイプ家(スネイプとのスィートホーム)は、一面が白壁で鋭角な焦げ茶色の屋根が被さり、同じ色の煙突が刺さっている。 ドアや窓枠も焦げ茶色で、地味なのに上品だった。 木製の柵で囲われた広い庭は、手入れが行き届き、白で統一されたテーブルと椅子が上品に置いてある。柵の内側を沿うように長い花壇があり、様々な花や草が植えられていた。 概観からは陰気さの「い」の字も感じられない。 「ハリー!」 「おじさんは大丈夫だった?!」 先に到着していたロンとハーマイオニーが玄関を開けて出てきた。 「私が失敗するはずないでしょ?」 「ダーズリー一家は今世紀最大に気持ち悪く、優しく見送ってくれたよ!」 「さすがさん!私も見習わなくっちゃ!!」 は笑うと三人に言った。 「さて、ランチはサンドウィッチにしようかしら? それを食べたら、湖で泳ぎましょう!今日は天気も良いし、気温も高いから絶好の湖日和ね! ここの湖はとても水が綺麗で、魚も沢山いるのよ。」 三人ははしゃぎながら家の中へ入った。 室内も壁は白で統一され、玄関を入って目の前に階段があり、二階へ通じている。 天井は吹き抜けで一階からもいくつかのドアが伺える。 入って右のドアはリビングに通じていて、空色の座り心地の良さそうなソファとフワフワなカーペット、大きなテレビが設えていた。 きちんと整理されたキッチンの手前には、木製の6人は食事が出来るテーブルと同じ素材の椅子が置いてある。 なんとも寛げそうな家だった。 「さあハリー、二階のゲストルームに荷物を置いてきて!ロンと同じ部屋だから、案内してあげてくれる?」 「オーケー!」 ロンはハリーを連れて二階へ上がった。 上がって右にはドアが三つ、左にはドアが二つある。 「ドアが三つある方の一番奥が僕らの部屋だよ!ハーマイオニーの部屋はここ、僕らとは部屋一つ隔ててあるんだ。」 ハリーとロンの泊まるゲストルームは窓が大きく切ってあり、日当たりが抜群だった。横になったらすぐ寝てしまいそうなフカフカのベッドが二つ、真っ白なシーツに包まれて置いてあり、小さな机と洋服箪笥まで備え付けてある。 ハリーは荷物をドサッと置くと、窓を開けヘドウィグを放しロンと一緒に急いでリビングへ向かった。 「いま出来たところよ!」 はサンドウィッチが山のように乗った皿を杖で器用にフワフワ浮かせテーブルに着地させた。 三人は席に着く。 「飲み物は何がいい?」 「パンプキンジュース!」 「アイスレモンティー!」 「オレンジジュース!」 はグラスの縁をトントンと杖で叩き、ジュースを満たすと三人の前に着地させる。 「私はアイスコーヒー。」 最後に自分のグラスにコーヒーを満たし席に着く。 「では、此処での最初の食事をいただきましょう!あいさつは日本式で。みんな手を合わせて・・・・そうそう、では『いただきます!』」 「「「いただきます!」」」 三人は一斉にサンドウィッチに手を伸ばす。 サンドウィッチには色々な具が挟んであった。タマゴにハム、チーズ、コーンサラダ、ポテトサラダ、マカロニサラダ、ベーコン、ツナ、チキン、シーフード、そして何故かホウレン草(曰く、スリザリンのシンボルカラーは緑でしょ?)。イチゴジャムにマーマレード、ブルーベリージャム、ピーナッツバター、チョコレート、そして見たことも無い真っ青なジャム(曰く、レイブンクローのシンボルカラーは青でしょ?)。サンドウィッチは一口サイズなので、色々な味を楽しめた。 食事を済ませた四人は水着に着替え、湖へと向かう。 の話通り、湖はとても綺麗だった。 湖畔には丸い岩が適度に転がっており、水芭蕉が儚げに咲いていた。透明度抜群の水質は、潜っても湖の端から端まで見渡せそうだった。 ハリー、ロン、ハーマイオニーは水をかけ合ってはしゃいでいる。 は岩に腰掛け、三人を楽しそうに眺めると、何かを思いついて杖を取り出した。 「みんなぁ〜動かないでね!」 三人が一塊になっているときに声をかける。 ハリー、ロン、ハーマイオニーは「ナニナニ?」と不思議そうに静止すると、は三人の頭上目掛けて杖を燻らせている最中だった。 それに気付いたハーマイオニーがふと上を見上げると、なんと特大(ドラム缶20個分はある)の水の塊が三人の上をフワフワと浮いていた。 「さんっ!!!」 「落下〜〜〜っ!!!!」 の掛け声と同時に水の塊は三人目掛けて落ちてきた。 バッシャーーーーーーンッ!!!! 三人は見事にずぶ濡れだ。 はケラケラとお腹を抱えて笑っている。 はその後ハリー、ロン、ハーマイオニーに湖に引きずり込まれ、ずぶ濡れになった。 その日はあっという間に時間が過ぎて、ディナーのあと三人ははしゃぎすぎたせいか泥のように眠った。 次の日、ハリーとロンは箒に乗ってクィディッチの練習、とハーマイオニーは庭の草花の手入れをして過ごした。 ディナーのときハリーがに言った。 「さんはクィディッチのメンバーじゃなかったの?」 「私は四年生のときにメンバー入りしたわ、チェイサーでね。宙返りで敵を翻弄するのが得意だったのよ?」 「そうか、僕もっとクィディッチ上達したいんだ!さん、僕に特訓してよ!」 「ええ、もちろんいいわよ!・・・・・・・・・・・じゃあ、スペシャルコーチも呼びましょうか?」 は曰くありげにニヤリと笑うと、「明日のお楽しみね!」と言ってキッチンで鼻歌を歌いながら片付け物を始めた。 次の日、ハリーとロンが朝食に降りていくと、ハーマイオニーはキッチンでの手伝いをしていた。テーブルには男性が二人、腰をかけている。 ハリーは二人を目にし、歓喜の声を上げた。 「シリウス!ルーピン先生!」 ハリーとロンは二人に駆け寄る。 「やあ、ハリー、ロン!元気だったかい?」 「ハリー!ちょっと見ない間に大きくなったなぁ!」 「さん!シリウスとルーピン先生がスペシャルコーチ?!」 は満面の笑みで答える。 「そうよ、ピッタリだと思って!在学中に二人ともジェームズの秘密特訓の相手をしていたのよ。」 とハーマイオニーは朝食をテーブルに並べる。 ハリー、ロン、ハーマイオニー、。そして今朝到着したブラックとルーピンは席に着き揃って朝食をとった。 「いきなりに呼び出されたから、何事かと思ったよ。」 「は昔っから強引だったからなぁ!」 「私は強引で異論はないけど、シリウスには負けるわよ。」 「僕もの意見に賛成だね!」 「リーマス!の肩を持つのか?!」 「だって、シリウスは本当に強引だったでしょ?あっ、今もそうか! ハンサムで強引で素直じゃなくてどっか抜けてて、憎めないんだよね〜。」 「そうそう、好きな女の子に告白される度に心にもない事言って嫌われて!」 「うるさいっ!!」 「あっ、それはちょっと違うな。女の子の申し出を断り続けたのは、シリウスもに憧れてたからだよ?」 「リッ、リーマスッ!!!!」 ブラックは口に含んだオレンジジュースを派手に噴出しながら叫んだ。 「あ〜あっ、汚いなぁ・・・・。 もう昔のことなんだから、白状してもいいんじゃない?僕もこの間、に言ったよ?」 「あらまぁ、シリウスもなの?! ゴメンね、本当に全然これっぽっちも気付かなかったわ。なんだか私、鈍感を通り越して、青少年の心を玩ぶ酷い女みたいね。」 「シリウスが意地張ってに気の無い振りをしてたんだもんね〜!それも相当必死に!」 「ふんっ!学生時代の気の迷いだよ!」 「またまたぁ〜!の写真、いっぱい枕カバーの中に隠して毎晩こっそり眺めてたでしょ?」 「っっっ!アホッ!!!んなこと言わなくていい!!!!!」 「写真?写真なんて、そんなにたくさん撮ったっけ?」 はベーコンを食べながら不思議そうにブラックとルーピンを見た。 「リリーとの写真は結構出回ってたよ?食事中、図書館で勉強中、クィディッチの試合中、睡眠中、着替え中、シャワールームもあったっけ?」 「シャワー???!!」 「あったよね、シリウス?・・・・・・・・ほらっ正直に答えなよ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あった。」 「誰がそんなのを撮ったのよ?!」 「ナルシッサ先輩だよ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ナルシッサ先輩ならやりかねないわ。」 「結構言い値で売れてたみたいだから、お小遣い稼ぎに調度よかったみたいだよ? あっ、三人は知らないよね?ナルシッサ先輩はね僕らの二級上の人でね、今はルシウス・マルフォイの奥さんだよ。」 「じゃあ、僕らの同級生でスリザリンのドラコ・マルフォイのお母さん?!」 ハリーが驚いて声を上げる。 「そうそう!」 「一家揃って意地汚いんだなぁ。」 ロンが感心して腕を組んだ。 「じゃあ、そのっ・・・・・私の入浴写真が当時、男の子に流出してたの?」 「かなりプレミアが付いてて、枚数は少なかったけどね。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しっ、知らなかったわ・・・・。 しかし、この年になって、こんなにも学生時代の秘密を知ることになるなんて・・・」 「男は子供だからね、日常生活に色々刺激を求めるんだよ。」 「シリウス・・・・もう当時の写真持ってないでしょうね?」 「もっ、持ってるわけないだろう!! あんなもの、がセブルスと結婚するって聞いたときに捨てたっ!燃やしたっ!!」 「あれぇ〜?じゃあ、卒業後五年間は持ってたんだぁ〜!学生時代の気の迷いじゃなかったんじゃない?」 「上げ足を取るな!! おいハリー!いつまで飯食ってんだ?!練習するぞ練習!!!」 ブラックは足早に玄関へと消えていった。 「あっ、シリウス待ってよ!!」 「ハリー、置いてくなよ!僕も行くよ!」 「ちょっと二人とも?!私も行くわっ!!」 ハリー、ロン、ハーマイオニーは急いで箒を取りに行くと、ドタバタと外へ出て行った。 静かになったリビングではルーピンとが微笑みながら窓の外の四人を眺めている。 「まったく、いつまでも素直じゃないんだから。」 「フフッ、本当ね。シリウスは昔と全然変わらない。」 「は学生時代、セブルスの前に好きな人はいなかったの?」 「そりゃあいたわよ?私ってこう見えて、結構恋多き乙女だったから。 ルシウス先輩に憧れてたこともあったし、実はジェームズもシリウスもリーマスも其々好きだった時期があったのよ?」 「それは知らなかったよ!」 「だから、お互いのタイミングが良ければ、誰が誰と結婚してたか分からないわね。人生って面白いわ!」 は四人を眺めながら言った。 |