湖畔には初夏の日差しが降り注いでいる。
水面は波が立つ度キラリキラリ美しく輝き、芝生は元気に風を受けてそよいでいた。

四人は湖の端にあるブナの木陰に腰を下ろした。



「えっと、どこまで話したっけ?あぁ、私とセブルスの事ね。」



ハリー、ロン、ハーマイオニーは待ってましたと言わんばかりに身を乗り出した。



「じゃあ、在学中の彼の事から話しましょうか。」

はニヤリと笑うと語りだした。







「セブルスはジェームズとシリウスに目を付けられていたの。」


三人はやっぱりなという表情をした。
は苦笑いで返すと続ける。


「まぁ、若気の至りってヤツね。
ジェームズとシリウスはセブルスが全く気に入らなかったのね。

君たちも察しが付くと思うけど、彼、昔から真面目なんだけど陰気だし、口を開くと嫌味しか言わないから。

でも、セブルスが二人に突っ掛かっていったことは一度も無かったのよ?いつも喧嘩を吹っかけるのはジェームズとシリウスで、二人を止めるのがリリーだったの。」



ちょうど、この場所だったわ・・・・とは辺りを見回す。



「あれは闇の魔術に対する防衛術のOWL試験の日で、終わってから私とリリーは湖に足を浸けてのんびり試験の疲れを癒していたの。

そうしたら、ジェームズとシリウスのセブルスイビリが始まってね・・・・・最初は見てみぬ振りをしてたんだけど、あまりに酷いんで堪り兼ねたリリーが仲裁に入ったの。

当時のジェームズは、リリーの気を引きたくてあの手この手でアプローチしてたんだけど、リリーには全然相手にされなくて、ヤキモキしてたの。だから、「リリーはどんなことをすると喜ぶか」「どんなことをすると怒るか」っていう判断能力がちょっと鈍ってたのね。

セブルスは逆さ釣りにされてズボンを脱がされたの。

ジェームズを止めるリリーにセブルスは「穢れた血の助けなんか必要ない!」なんて心にもないこと言っちゃって、リリーはセブルスとジェームズに素晴らしい捨て台詞を吐いて足早に去っていったの。




ここからが大変でね!

ジェームズはリリーに怒られた腹癒せに、「セブルスのパンツを脱がす!!」なんて事やりだしちゃって・・・・

リリーが行っちゃったから、私以外誰も止める人がいなくて・・・・・慌てたわよ。

セブルスのパンツの中身なんて誰も見たがらないだろうし、何よりそんな屈辱誰だって受けたくないわ。

私は後ろから(ちょっと卑怯だけど、ジェームズは呪いをかけるのが本当に上手かったから)ジェームズとシリウスに「ペトリフィカス トルタス!」と唱えて、二人を石にしたの。呪いは上手くかかって、二人はうつ伏せに倒れたわ。」

















「さあ、お集まりの女の子たち!グリフィンドールの名シーカーのジェームズ・ポッターと、女の子に人気ナンバー1のシリウス・ブラックを弄り倒して頂戴!!」


はギャラリーの女生徒に笑顔を振りまき大声で言った。


「キャーーーッッ!!いいのっ?!」

「どうぞ、どうぞ!お好きなように!!」


女生徒はキャーキャー言いながら二人の服を脱がせていく。
パンツ一枚になったところでは反対呪文で呪いを解くと、二人は勢いよく立ち上がり散乱している制服をかき集めた。


「なっ、何するんだよッ!!」

「しゅっ、趣味が悪いぞ!!!」

「あら?あなたたちに私の趣味を、どうこう言われたくないわ!
いい、よく覚えておきなさい?今度、無抵抗な人に呪いをかけたら、貴方達の貞操は諦めることね!!!」


ジェームズとシリウスは色々言いながら校舎へ走っていった。


「ごめんなさい、私の呪い上手くかからなかったみたい。今度は失敗しないようにするから、楽しみにしててねっ!」


は女生徒たちに謝ると、彼女らは残念そうに校舎へ戻った。






残されたのはスネイプだった。





もう、呪いは解けているはずなのに、立ち上がろうとしない。









は静かにスネイプに近付くと


















彼は泣いていた。















「・・・・・・・・・・・泣いてたの?」

「そう、泣いてたわ。一生懸命声を殺して。」


ハリー、ロン、ハーマイオニーは感慨深そうに顔を顰めた。


「暫くして、私に背を向けて彼は立ち上がったわ。

そして背を向けたまま私にこう言ったの 『ありがとう』 って・・・・・・・・・・・・・・・・。



そのとき思ったの、「なんだコイツ、可愛いところもあるんじゃない」って。

それから私がセブルスに好意を抱くようになって、一緒に勉強したり会話するうちに自然にね。卒業後5年で、気が付いたら教会のバージンロードに立ってたわ。

これが私とセブルスの馴れ初めかしらね?」



は、湖から流れてくる冷たい澄んだ空気を胸いっぱい吸い込むと、「う〜ん」と言って伸びをした。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・僕の父さんは、酷い人だったんですね。」


ハリーはロンとハーマイオニーとは比べ物にならないほど暗く、落ち込んだ表情で言葉を搾り出した。

は、そんなハリーに向かって明るく答える。



「だから最初に言ったでしょ?若気の至りだって!

誰が悪くて、誰が酷いって問題じゃないわ。私に言わせれば、どっちもどっちよ。

それに、その後もお互い仲は悪かったけど、あそこまで酷い事は無かったし、なんてったって、あの正義感の塊みたいなリリーがジェームズを見初めたんだから!あなたのお父さんはとても魅力的な人だったのよ。」



ハリーは少し元気を取り戻し、苦笑いをした。



「やあ、こんなところに居たのかい?」



声をかけ、ブナの木に寄って来るのはルーピンだった。



「あら、リーマス!鼻が利くわね。」

「それは僕の特権でね。」



ルーピンはの隣に腰を下ろす。


「何の話をしてたんだい?」

「私とセブルスの馴れ初めをね。

この子達に「どうしてスネイプなんかと?!」って顔されちゃったわ。私の思ったとおり、彼は生徒に嫌われてるみたいね。」

「そうかな?僕はそうは思わないけど?」

「あなたの言うことは当てにならないわ、リーマス。」



はハリー、ロン、ハーマイオニーの顔色を伺い、三人の表情を読み取ると「ほらっ!」と悪戯っ子のような目でルーピンを見る。


「そうなの?

あぁ・・・・確かに僕も、スネイプと結婚するって知らせをから聞いたとき、「やっぱり!」とも思ったけど「なんでぇ?」とも思ったなぁ。」


でしょ?でしょ?という表情の三人。



は、学校中の生徒の憧れだったから。方や偏屈で陰気なセブルスでしょ?」

「憧れの的なんて大嘘を!」

「本当だよ?、気付いてなかったの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・知らないわ。」

「ホントに?!って正真正銘の超鈍感なんだね!」

「うるさいっ!!!」

「ねぇ、ルーピン先生?さんってそんなに人気があったんですか?!」

「もちろんだよ!
このルックスにこの性格だからね。
誰とでも訳隔てなく付き合うし、前向きでいつも明るいし、勉強も出来て・・・・特に変身術が得意だったよね?容姿端麗、明朗活発、この言葉が一番合うんじゃないかな?」

「リーマス、褒めても出るのは蛙チョコレートぐらいよ?それと、学校のマドンナはリリーでしょ?」

「あっ、いいね!食べたいな。
確かにリリーの人気は凄かったけど、も負けず劣らずだったよ?」



はホグズミードで仕入れたお菓子の袋の中から、蛙チョコレートを出して四人に配った。



「当時、東洋系の生徒は以外いなかったんだよ。
だから、のサラサラツヤツヤな黒髪と漆黒の瞳はとってもミステリアスだったし、シミとかソバカスに無縁そうな肌だし、スタイルは抜群だし、いつも男子生徒の話題だったよ?
・・・・・・・・・・・本当に知らなかったの?」

「知らないわよ!第一、私を誘ってくる男子なんていなかったわよ?!」

「誘われてるのにが冗談だと思ってただけでしょ?

僕よく聞いたよ?「に告白したら、笑い飛ばされた」とか「を抱き締めようとしたら有無を言わさず呪いをかけられた」とか。」




「・・・・・・・・・・・あれは私に気があったからだったの?

知らなかったわ、本当に冗談だと思ってた・・・・・・・・呪いをかけたのも、私が気に入らないから攻撃してきたんだと思って、つい

・・・・・・・・・・・・・・勿体無いことしたわ。」



の鈍感は筋金入りだね。

まあ、がセブルスと仲良くなってからは、彼がそういう奴を全部シャットアウトしてたけどね。」

「そうなの?!」

「それも、気付かなかったの?

凄かったよ、セブルスのやり方!死の呪いをかけるって脅したり、食事に魔法薬を盛ったり。食事中にイキナリ痙攣し出す生徒とかいたでしょ?あれはセブルスの仕業だよ。」



「・・・・・目的の為には手段を選ばない人だとは思ってたけど、そんなことしてたの・・・。」



「ふぅ〜っ・・・・
じゃあ、僕がに憧れてたのも知らないでしょ?」











「?!?!?!?!?!」












「やっぱりね〜っ!
あ〜あっ、僕の儚い初恋はこんな形で日の目を浴びちゃったよ。」

「冗談キツイわ、リーマス!!」

「冗談じゃないって、ホントホント!」



ルーピンは笑いながらも、真面目に答えた。



「・・・・・・・・・・・・・・・ゴッ、ゴメンナサイネ気付かなくて。」

「いいよ、もうはセブルスの奥さんだし。
でも、セブルスと失敗したらいつでも僕のところに来てね!いつでも準備万端で歓迎するよ?」



ルーピンは冗談だか本気だか判らない顔でニヒルに笑った。



「ありがとう、じゃあその時は宜しくお願いするわ。
でも彼がこの話を聞いてたら、得意の魔法薬でリーマスは確実に抹殺されるわね!」



は笑いながらスクッと立ち上がる。

「さあ、ダンブルドア先生もそろそろ帰られている頃じゃないかしら?
ハリー、ロン、ハーマイオニー、今日はとっても楽しかったわ!
良かったら今度、家へ遊びに来て。セブルスは休暇中もほとんど家に帰ってこないから、私、暇を持て余してるのよ。」


「ええ、是非!」

「いいんですか?!」

「やったぁ!」


三人は各々喜んだ。


「じゃあ、近々手紙を書くわね。」


そう言っては校舎へと歩き出した。