真っ直ぐな腰まで伸びた黒髪の美しい女性がホグワーツの門を潜った。

彼女は懐かしそうに校舎を見上げ、中庭や禁断の森を眺めると校舎へ足を踏み入れた。
彼女は迷う様子も無く校舎内を歩く。






「あらっ、フィルチさん!お久し振りです。」

「やあ、誰かと思ったらじゃないか!」




フィルチは普段生徒には絶対に見せない(含み笑いではない)笑顔を見せた。



「お元気でしたか?相変わらず、生徒の監視は大変でしょう?」

「あぁ、何時になっても生徒というもんは問題を起こさず学校生活を送るのが苦手らしい。元気じゃなけりゃ、こんな仕事はやってられんよ。」

「それもそうですね!」



と呼ばれた女性がフィルチと談笑していると、何処からともなくミセス・ノリスがトコトコとやってきた。



「あら!ミセス・ノリス!あなたも元気だった?」



ミセス・ノリスはフィルチの飼っている猫で、生徒が校則を破る瞬間をフィルチと一緒に監視している。



「ミャ〜オッ!」



ミセス・ノリスは嬉しそうにの脚に身を摺り寄せ、一声鳴いた。
はミセス・ノリスを慣れた手つきで抱き上げる。



「あなたは相変わらずフカフカね〜っ!」



はミセス・ノリスに顔を埋め、気持ちよさそうに目を閉じた。
ミセス・ノリスは喉をゴロゴロ鳴らしてに甘えている。



「それはそうと、今日は何の用事だね?」

「あぁ、ホグズミードにちょっと用事があったんで、折角だから久し振りにダンブルドア先生にご挨拶をしようと思って。」

「そうかい、校長もお喜びになるだろう。案内しようか?」

「いいえ、フィルチさんのお仕事の邪魔はできません。それに、懐かしいのでちょっと校内を散策していきます。」

「わかった、くれぐれも悪戯はせんようにな。」

「ふふっ、肝に銘じておきますね。」



は名残惜しそうにミセス・ノリスを離し、二人に別れを告げた。
フィルチとミセス・ノリスは廊下を曲がってふくろう小屋の方へ向かった。



調度、授業が終わったところらしく生徒が次々と教室から出てきた。生徒は大広間へランチに向かうようだ。











ふと、の目に懐かしい男性の面影が入ってきた。



いや、面影というか昔の映像がそのまま目の前に映し出されたようだった。




それは丸眼鏡をかけた男子生徒で、黒髪が後頭部でピョンピョン跳ねている。

彼の隣には、燃えるような赤毛の背が高くヒョロッとした男の子と、フワフワのウェーブヘアーが少々広がりすぎている女の子がいた。
彼らも大広間に向かっている。






「ねぇ君!」






は思わず、声を掛けてしまった。


「・・・・はい?」


男の子は明らかに学校の職員ではない人物に声を掛けられ、困惑気味に立ち止まった。


「君がハリー君ね?」

「・・・・・そうですけど、あなたは?」

「あっ!ごめんなさい、自己紹介もせずに。」



はハリーの元に歩み寄り、苦笑いした。



「私は・・・・・」

!ここで何をしている?!」



の後ろから声を掛けたのはスネイプだった。
ハリーたちはまた難癖を付けられて減点されないよう、身構えた。



「あら、セブルス。お久し振り!」

「挨拶はいい!ここで何をしているのかと聞いている!」

「ホグズミードにお菓子の買出しにね。ついでにダンブルドア先生にご挨拶しようかと思って。」

「ならば寄り道せずに、さっさと校長室へ行け!」

「いいじゃない!久し振りに来たんだから、ちょっと散策したって。」



はスネイプとタメ口で話している。

見た目はスネイプより10歳以上は若い・・・20代後半ぐらいに見えるがどういう関係だろう?

ハリーたちは口をアングリ開けて事の成り行きを見ていたが、耐えかねたウェーブヘアーの女の子がスネイプに尋ねた。



「あのーっ、スネイプ先生?こちらの方は何方ですか?」

「ほらっ!スネイプ先生が口出しするから、自己紹介も出来ないじゃない!」


はハリーたちの方に向き直り、膝に手を付いて三人と視線を合わせた。


「御免なさいね、私は・スネイプ。

セブルス先生とはホグワーツの同級で、同じスリザリン寮だったの。
あなたのお母さんのリリーとは、友人だったのよ?」


は満面の笑みで三人に自己紹介した。


「僕の母さんを知ってるんですか?!」


ハリーは眩しいくらいの笑顔でそう言った。


「ええ、とっても仲良しだったの!」







「スネイプ先生と同じ年?!全然見えないわ!」


フワフワヘアーの女の子が目を見張って言った。


「ふふっ、ありがとう。昔は老けて見られてたんだけどね。」






「・・・・・・・・・・・・・・あのっ、同級生で、ファミリーネームがスネイプってことは、お二人は二卵性双生児・・・とか?」


赤毛の男の子が聞きずらそうに尋ねる。


「あらっ、兄弟にみられちゃったわよ?スネイプ先生!」

「その『スネイプ先生』はやめんか!」


は心底愉快そうに笑った。








「残念ながら兄弟じゃないの、ロナルド・ウィーズリー君?」



「なんで僕を知ってるの?!」

「あなたのお母さんには大変お世話になったわ。私の母とモリーさんが知り合いでね、料理と編み物を教えていただいたのよ!」

「うへぇ〜そうなんだぁ!」



ロンの目はキラキラ輝いた。



「それとあなたは、秀才のハーマイオニー・グレンジャーさんね?」

「私のことも知ってるの?!」

「ええ、あなたは先生方の間で有名人よ?とっても頑張りやで、すごく優秀だって!」



ハーマイオニーは嬉しそうに照れ笑いをした。

すると、ハリーが申し訳なさそうに口を開く。



「あのっ、話を戻すようで申し訳ないんですが、お二人は兄弟じゃないとすると・・・・・・」

「私の結婚した先の家が、スネイプというファミリーネームなのよ。」

「ということは・・・・つまり・・・・・」









「・・・・・・・は我輩の妻だ。」









一同は口を開けたまま、声も出せずに驚いている。
人間、本当にビックリしたときには声が出ないものなのだ。



(スッ、スネイプって結婚してたんだ!!!!)

(信じられない!!!こんな美人が!!!!)

(いっ、いったいスネイプの何処に、魅力を感じたのかしら?!?!)



「フフフッ、みんなあなたが既婚者なのが信じられないみたいね、スネイプ先生?」

「だからその呼び方はやめんか!!」


ハリー、ロン、ハーマイオニーは喋れないわ、スネイプは怒り心頭だわでもは愉快そうだった。








「まあっ?!ではありませんか!!」

「あれぇ〜?こんなところでどうしたの?」



現れたのはマクゴナガルとルーピンだった。


「きゃあっ!!マクゴナガル先生、お久し振りです!!」


はマクゴナガルを見るや否や、叫びながら飛びついた。



「先生、お変わりなくて嬉しいです!」

「ありがとう。も元気そうなので安心しました。」

「リーマス、相変わらず顔色が悪いわね!」



マクゴナガルの肩越しにルーピンへ声をかける。



「ありがとう、も相変わらず元気だね!」

「今日はどうしたのです?あなたが学校に来るなんて珍しいですね。」



はマクゴナガルに聞かれ、やっと抱き合うのをやめて向き合った。



「はい、ホグズミードに用事があったので、久し振りに顔を出してみました。ダンブルドア先生にもご無沙汰しているので挨拶をと思って。」

「そうですか、ですが校長は今日、魔法省に出かけています。帰るのは夕方になると思いますよ?」

「では、夕方まで待っていても構いませんか?」

「もちろんです。さあ、ランチを召し上がりなさいな。」

「いいんですか?!やったぁ!!」



は飛び上がって喜んだ。

騒がしい部外者に生徒三人は興味を持ったらしく、をランチへ誘う。



さん、僕たちのテーブルにおいでよ!!」

「僕、母さんの話を聞きたいです!!」

「お願い!一緒に食べましょう!」





「・・・・じゃあ、そうしようかな?」


スネイプの凶悪な睨みを軽快に無視し(さすが奥さんなだけある!と三人は感心した)、は三人に手を引かれてグリフィンドールのテーブルへ向かった。










「ホグワーツの屋敷しもべ妖精さん、お久し振り!元スリザリンのよ。後でご挨拶に伺うわね。」


はテーブルに向かって話しかけると、カップに入った茶色いスープがテーブルから湧き上がるように出てきた。


「ありがとう!私の好物、覚えていてくれたのね?!嬉しいわ!!」

さん、それは何?」


ハーマイオニーは興味深々でカップを覗く。


「これは日本食よ、ミソスープっていうの。私、日本人で始めてのホグワーツ生だったから、屋敷しもべ妖精さんが、わざわざ日本食を勉強して特別に作ってくれたの。」


三人は「ヘェ〜」と感心しながらカップを覗く。



「飲んでみる?」

「いいんですか?!」

「えぇ、もちろん!」



三人は変わりばんこにカップへスプーンを入れてミソスープを掬った。



「・・・・・何だか、不思議な味。」

「初めての味だわ。」

「うわっ!これ、すごく美味しいよ!!」


ハリーだけは気に入ったようだった。


「あら、ハリーはお気に入りね?
ミソスープはモーニングに飲むのが一番美味しいのよ。リリーも好きで、よく二人で飲んでたわ。」


ハリーの目は輝いた。





「あのっ、さんってスリザリン寮だったんですよね?」


ハーマイオニーが恐る恐る尋ねた。


「そうよ、そうは見えない?」


「・・・・・・・・・・・・・・ちょっと。」



どうも、スリザリンの雰囲気がない。
スリザリンといえば、一般的に意地悪そうな生徒が多いのに、はそこからかけ離れ過ぎているように感じる。


「それは在学中にもよく言われたわ、組み分け帽子の間違いじゃないかって。」


は視線を上にして少し考えると喋りだした。


「・・・・・そうね、やっぱりちょっと異色だったかな?
こんな性格だから誰とでも話したし、スリザリンの天敵であるグリフィンドールとも仲良かったし、有り難いことに先生方にも好かれてたしね。」

「ルーピン先生とも仲良しだったの?」

「えぇ、リーマスはとても優しくて面白くて、よく一緒にお菓子を食べて語らったわ。
それに悪戯の天才で自慢屋のジェームズ・・・あなたのお父さんね?それとハンサムで有名だったシリウス、でも特にリリーとは親友だったわ。」

「母さんと・・・・・」

「リリーは本当に素晴らしい魔女で、頭が良くて慈愛に満ちていて、とってもチャーミングで、私は大好きだったわ!」



は遠くを見ながら昔を懐かしんでいる。



「宿題を見てもらったり、お互いに恋愛の相談にのったり、お化粧の仕方を研究したり、リリーのお陰で本当に楽しい学校生活が送れたわ!」



ハリーは嬉しい反面、両親の記憶が無いことを悲しんでいるようだった。

目敏くハリーの表情を読み取ったハーマイオニーが話題を変える。



「あのっ!スネイプ先生とは、学生時代から仲が良かったんですか?」

「フフッ、その話は場所を替えてしましょうか?あそこで、耳を象並みにしてる人がいるから。
今日は午後の授業はお休みでしょ?」



気が付くと、大広間に残っている生徒は疎らで、いつもなら真っ先に席を立つスネイプが凶悪な面持ちでこちらの話に耳を欹てている。


は立ち上がり「湖の畔がいいわ」と歩き出した。

ハリー、ロン、ハーマイオニーもそれに続く。


残されたスネイプは後を付けようかどうしようか散々迷った挙句、自室で研究に没頭することに決めると、心底不機嫌そうに椅子から立ち上がった。